スマートフォン版公式サイトは終了しました。

ホーム書物のリレーエッセイ→若井 彌一 先生

本の検索


書物のリレーエッセイ(第2回)

生きる力の 一滴となる 読書を友に 夢の旅 / 若井彌一 (前学長)
()内の肩書・所属は掲載当時のものです

光栄なことに,リレー・エッセーの2回目を執筆することになりました。 文章は格調高いとは言えませんが,読者の方々の参考となるところがあれば幸いです。

1.「ローマは,一日にして成らず」 (英訳:Rome was not built in a day.)この名文句は ,大学受験生だけでなく,高校受験生にも広く知られている,教訓に満ちた一文です。 この一文ほどではないにしても, 「すべての道はローマに通ず」(英訳:All roads lead to Rome.)という古代都市ローマの栄華を讃えるかの如き一文も広く知られています。 この一文の意味は,少々の意訳の感じが強いけれども,「目標達成のための方法は一つではない」 というような解説がされています。(安藤邦男,『テーマ別 英語ことわざ辞典』,東京堂出版,2008年,21~22頁,参照)

2.そして,実はこの小稿で,読者の方々に強調しておきたいのは,多様な学習の一つである読書の積極的活用についてなのです。

人間, 誰でもそうですが, こう成りたいという目的や目標を設定したとしても,そこに到達する方法や道筋は決して単一ではありません 。一例を挙げてみます。

我が国の教育改革では, 平成8年の中央教育審議会答申以来, 「生きる力」 の育成が重要な取組課題とされて来ました。

この「生きる力」 (英訳例:Zest for living)は, 「全人的な力」ということなので,その内容は極めて包括的です。 したがって,その力を学校教育で育成 ・ 涵養していくとしても,その道筋は無数にあると言って誇張ではないでしょう。

そして,学び(あるいは教え)の具体的な対象,内容程度,方法の多様性は,学習する各人それぞれに適合(fit)していてこそ, 各人は学びの楽しさ(充実感)を実感し,更に次の課程へと進もうとするのです。 学びの根本原理は, このことかと思われます。 このことを教えの立場から述べた言葉が,「人を見て法を説け」(釈迦)です。

3.学びの効果的方法の一つとして,読書(reading)は,国柄に関係なく,人類共通の学習行為として全世界的に定着しています。この読書(活動)は読者(学習者)の自発的な意欲と集中力,思考力,判断力等によって成り立ちます。

学校教育でこの読書力を高める取組 (指導) が行われ, 子ども達は,一人一人の判断で, 本を選択していくようになります。 そして, 人は,大小さまざまな出会いをこの読書を通じて, 経験していく訳ですが, 特に大きな出会いもあります。

私の場合,大学生(学部)の時に読んだ,岸本英夫 『死を見つめる心』(講談社,1964年) に,決定的な衝撃を受けました。 大学院に進み,研究者の道を歩もうとするようになったのは, 著者の人生の晩年の力を振り絞った生き様に影響を受けたことによります。

4.最後に,もう一つ。 「ローマ法に学び,ローマ法を超えて」という名セリフは ,著名なローマ法(法律学)の研究者:イェーリング(1818~1892.Rudolf von Jhering.ドイツ人)によります。 法(律)学だけでなく,学び(学問)の心得(基本的態度)を説いた有名な文句となっています。

これまで,世界的に見れば 「無数の本」と言ってよい程の膨大な数の書物が発刊されております。 心掛け一つで,どんどん自分の世界を大きくすることができます 。 「人生をより深く生きる力を身に付けていく 」 (子ども読書活動推進法2条) ことを自覚して,読書を夢のある(学生)生活の一部にしてみましょう。約34万冊の蔵書を有する上教大附属図書館の積極的活用も,ぜひ! (2013.1.17)


※エッセイで紹介されている資料のうち、当館に所蔵しているもの

※ご感想をお寄せください。e-mail gservice @ juen.ac.jp